譲渡?売却?子どもに資産を残すにはどっちが正解?具体例をもとに2つの違いを専門家が解説

  譲渡?売却?子どもに資産を残すにはどっちが正解?具体例をもとに2つの違いを専門家が解説

将来的に自分が所有する不動産を渡したいが、相続を待つべきか、生前贈与してしまった方がいいか悩んでいる方もいるかと思います。この記事では具体例をもとに2つの違いを専門家が解説していきます。

手塚 大輔
【執筆・監修】手塚 大輔

地方銀行に10年弱勤務した後、現在は飲食店を起業しており、プロのライターとしてもSEO記事、コピーライティングなどを行なっております。 銀行では、預金業務、カードローン、住宅ローン、企業の運転資金、設備資金、起業開業支援、保険販売、投資信託販売などの他、企業の決算書の審査など経験。

【保有資格】ファイナンシャルプランナー

将来的に自分が所有する不動産を渡したいが、相続を待つべきか、生前贈与してしまった方がいいか悩んでいる方や、相続と贈与どちらがいいのかわからない方も多いのではないでしょうか?

子供や配偶者へ不動産を引き継ぐ方法は、主に贈与と相続の2つの方法があります。

結論としては、相続の方が税負担は少ないですが、贈与の方が向いている場面がありますし、特定の条件下では贈与の方が税負担が少なくなることがあります。

子供や配偶者へ不動産を引き継ぐ際に、相続と贈与どちらがよいのか詳しく見ていきましょう。

不動産の譲渡と贈与と相続と売却の違い

不動産の譲渡とは、不動産を誰かに譲り渡すことです。

したがって、金銭を受け取って譲り渡すことも譲渡ですし、相続や贈与によって譲り渡すことも譲渡です。

不動産の譲渡には以下の3つの原因があります。

  • 贈与
  • 相続
  • 売却

不動産の譲渡の原因をまずは理解していきましょう。

贈与とは?

贈与とは財産を渡す側の「あげます」という意思と、受け取る側の「受け取ります」という意思が双方合意して、無償で財産を譲渡することです。

無償の譲渡を贈与と理解しておきましょう。

贈与は誰に対しても行うことができ、財産のうち任意の財産を贈与したい分だけ譲渡できるのが特徴です。

相続とは?

相続とは、ある人が死亡したときにその人の財産を、特定の人が引き継ぐことをいいます。

遺言がない場合、相続人となれるのは、「配偶者」「直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹の血族」と定められています。

相続は贈与とは異なり、無償で譲渡できますが、特定の人に特定の財産だけを譲渡することができず、基本的には被相続人のすべての権利と義務を相続しなければなりません。

したがって、被相続人が資産と負債を残して死亡した場合、「負債はいらないから、資産だけ相続する」ということは不可能です。

売却とは?

売却とは、対価を受け取って資産を譲渡することです。

無償譲渡であれば贈与になりますし、有償譲渡であれば売却になります。

ただし、売却代金が不動産の価値と比較して劣る場合には、「みなし贈与」となる可能性があります。

みなし贈与については、のちほど詳しく解説します。

無償の譲渡には税金がかかる

不動産を無償で譲渡する方法が、贈与と相続です。

これら2つの方法で譲渡した場合には税金が発生するので注意しなければなりません。

不動産の無償譲渡には贈与税が課税される

不動産無償譲渡は贈与ですので、贈与税が課税されます。

なお年間110万円までの贈与は非課税ですので、贈与した財産の価額から基礎控除分である110万円を控除した金額に税率を乗じて贈与税額は算出されます。

贈与は誰からの贈与なのかによって以下の2つの種類に分類され、税率が異なるので注意しましょう。

  • 一般贈与財産:特例贈与財産に該当しない贈与
  • 特例贈与財産:両親や祖父母などから成人の子や孫など直系尊属間の贈与

それぞれの贈与税の税率は以下のとおりです。

一般贈与財産

一般贈与財産にかかる贈与税は以下のとおりです。

課税
価格
(基礎
控除
後)
200
万円
以下
300
万円
以下
400
万円
以下
600
万円
以下
1000
万円
以下
1500
万円
以下
3000
万円
以下
3000
万円
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除
10
万円
25
万円
65
万円
125
万円
175
万円
250
万円
400
万円

例えば、直系尊属以外から500万円の不動産の贈与を受けた場合の贈与税額は以下のようになります。

(500万円–110万円)×20%–25万円=53万円

特例贈与財産

親などの直系尊属からの贈与は特例贈与になるので、税率は以下のようになります。

課税
価格
(基礎
控除
後)
200
万円
以下
400
万円
以下
600
万円
以下
1000
万円
以下
1500
万円
以下
3000
万円
以下
4500
万円
以下
4500
万円
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除
10
万円
30
万円
90
万円
190
万円
265
万円
415
万円
640
万円

例えば、親から500万円の不動産の贈与を受けた場合の贈与税額は以下のとおりです。

(500万円–110万円)×15%–10万円=48万5千円

特例贈与の方が一般贈与よりも税額は安くなります。

参考:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

不動産の相続には相続税が課税される

不動産を相続した場合には、相続税が課税されます。

しかし相続税は非課税枠が大きく、以下の計算によって算出された金額までは非課税です。

3,000万円+(700万円×法定相続人の数)

例えば、相続人が被相続人の妻と、子供が2人の場合には、3,000万円+(700万円×3人)=5,100万円です。

このケースでは5,100万円を超えた相続財産がある場合のみ、超えた分だけ相続税が課税されます。

相続税の税率は以下のとおりです。

法定
相続
分に
応ずる
取得
金額
1,000
万円
以下
1,000
万円
超から
3,000
万円
以下
3,000
万円
超から
5,000
万円
以下
5,000
万円
超から
1億円
以下
1億円
超から
2億円
以下
2億円
超から
3億円
以下
3億円
超から
6億円
以下
6億円
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除
50
万円
200
万円
700
万円
1700
万円
2700
万円
4200
万円
7200
万円

例えば、500万円の相続財産に相続税が課税される場合の相続税は以下のとおりです。

500万円×10%=50万円

みなし贈与にも贈与税が課税される

みなし贈与とは、対価を受け取って不動産を譲渡した場合、対価と贈与財産の評価額が乖離している場合、その差額について「贈与である」とみなされることです。

たとえば、評価額2,000万円の不動産を800万円で売却した場合、差額の1,200万円について「贈与が行われた」と判断されて、贈与税が課税されてしまうことがあります。

対価を受け取ったからといって贈与にならないので注意しましょう。

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相続よりも贈与が向いているケース

相続の方が贈与よりも税負担は少ないのが基本ですし、基礎控除を超えない限りは相続税が課税されないこともあります。

しかし、以下のケースでは、相続をおこなうよりも贈与の方が向いています。

  • 将来の相続手続きで揉めそうな場合
  • 贈与すること税負担が軽くなる場合
  • 将来的に相続放棄をしたい場合
  • 法定相続人以外に財産を残したい場合

相続よりも贈与が向いている4つのケースについて詳しくみていきましょう。

将来の相続手続きで揉めそうな場合

将来、相続の手続きで揉めそうな場合には、所有が元気なうちに贈与によって財産を引き継いでしまうことがあります。

たとえば、兄弟姉妹が不仲な場合や、異母兄弟などの事情がある場合、被相続人が死亡したあとでは、遺産分割協議が進まないことがあります。

「自宅は長男に引き継ぎたい」などの希望がある場合には、生前に贈与しておくことによって、相続で揉めることなく、スムーズに財産を継承できます。

贈与すること税負担が軽くなる場合

相続税の方が贈与税よりも税率は低いですが、稀に贈与をしておく方が税負担が少なくなることがあります。

相続財産が若干基礎控除を超えている

1つめが相続財産が若干基礎控除を超えているケースです。

相続人が被相続人の妻と、子供が2人の場合の基礎控除額は、3,000万円+(700万円×3人)=5,100万円です。

被相続人の財産が5,600万円の場合、あらかじめ500万円を贈与しておけば、贈与税は(500万円–110万円)×15%–10万円=48万5千円となります。

一方、贈与をせずに、500万円に相続税が課税された場合には、500万円×10%=50万円ですので、このケースではあらかじめ贈与しておいた方が税負担は軽くなります。

相続財産の総額を減らしたい

2つ目は、相続財産の総額を減らしたいケースです。

例えば、相続財産が1億500万円の場合の相続税は(1億500万円×40%)–1,700万円=2,500万円です。

相続税の税率は1億円以下となると下がるので、あらかじめ500万円を贈与して、相続財産を1億円とした場合の相続税額は、(1億円×30%)–700万円=2,300万円となり、1億500万円の相続税よりも200万円も低くなります。

ここに500万円の贈与税である48万5千円が加わっても税負担は2,348万5千円ですので、贈与せずに相続をおこなうよりもかなり税負担は軽減できます。

このように、贈与をうまく活用することで、相続時の税負担を軽くできるケースでは贈与が活用できます。

参考:相続税と贈与税はどちらが高い?税率・控除の違い-節税できる生前贈与も

将来的に相続放棄をしたい場合

親が借金を抱えており、将来的に相続放棄を検討している場合には、生前贈与を行い、財産だけ先に受け取っておくことで、被相続人死亡時には相続放棄ができます。

相続では資産も負債も相続しなければならないので、被相続人に資産と負債があった場合で、資産を相続したいのであれば同時に負債も相続しなければならなくなります。

しかし、あらかじめ資産だけ贈与をおこなっておけば、被相続人が死亡したときには負債だけ残すことができるので、資産を継承した状態で負債の相続放棄が可能です。

しかし、被相続人が死亡する7年前までの生前贈与については、その贈与はなかったものとみなされて相続財産に加算されるので注意しましょう。

法定相続人以外に財産を残したい場合

法定相続人以外に財産を残したい場合にも、生前贈与が有効です。

例えば、被相続人に恋人と、以前の配偶者との間にもうけた子供がいる場合、法定相続人には子供ですので、恋人には財産を継承する権利がありません。

このような場合は生前贈与をおこなっておけば、子供から干渉されることなく財産を恋人へ残すことができます。

贈与は譲渡する財産の種類や金額や相手を問わず、自分が好きな相手に任意の財産を譲渡できるので、法定相続人以外の人に財産を残したい場合に有効です。

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まとめ

譲渡は不動産を譲り渡すことで、対価を受け取って譲渡する場合には売買、対価を受け取らず無償で譲渡した場合は贈与、所有者の死亡によって相続人へ譲渡する場合は相続になります。

相続よりも贈与の方が税率が高いので、原則として相続税の方が譲渡にかかる税負担は少なくできます。

しかし贈与や任意の財産を誰に対しても自由に譲渡できるので、特定に財産を特定の人に残したい場合などに有効に活用できます。

また、相続財産の価格によっては生前贈与をしておいた方が、税負担を軽減できる場合もあります。

贈与の特徴や相続税との関係性を理解して、適切に使い分けられるようになりましょう。

参考:不動産の「譲渡」とは?贈与や相続との違いと譲渡所得税の節税方法

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