不動産取引にまつわるエピソード集① 実例から学ぶ教訓と抑えるべきポイント

  不動産取引にまつわるエピソード集① 実例から学ぶ教訓と抑えるべきポイント

不動産取引におけるトラブルやリスクを回避するべく、これまであった不動産取引のケーススタディをご紹介していきます。特にはじめて不動産取引を行うという方には参考になる情報が多いかと思いますので、そんな方のお役に少しでも立てば幸いです。

加藤 隆二
【執筆・監修】加藤 隆二

渉外融資担当経験を勤続30年以上。 業績良好な事業性・個人ローン貸出取り扱いから業績不振・リストラ等での法人・個人リスケまで、融資関連の入り口から出口まで経験あり。

【保有資格】ファイナンシャルプランナー

不動産投資に興味があるけれど、何をどこから、どうやって始めればいいかわからない
建売住宅や土地から家を建てたいけれど、不動産の取引のことを詳しく知りたい

この記事に出会った人は、こんなニーズで検索しているのではないでしょうか?

住宅ローンを借りて家や土地を買う、あるいは不動産投資をするなど、最初はみんな「初心者」です。

そのためトラブルに巻き込まれたり、想定外の事態で金銭的な損失を抱えなければならないケースもあります。

確かに不動産取引にはリスクやトラブルもありますが、基本的な部分から知識を備えることや、トラブルの事例などを見て、そこから学べる教訓を自分のものとすることで安心して不動産取引をすることができるようになります。

そこでこの記事では、銀行員の私が実際に不動産取引の現場で出会った実例なども交えながらわかりやすく説明していきます。

私は後輩の若手銀行員に向けて、住宅ローンや不動産投資ローンを融資する視点から講義(不動産取引において売却・購入の注意点や、売買におけるポイントなど)をすることもあり、この記事はその講義内容に基づく部分も盛り込んでいます。

若手銀行員と同じように、

  • 不動産取引に関する具体的な知識や経験が無く、実際の事例を通じて学びたい
  • 市場の動向、法律的な側面、財務的なリスクなどについての理解を深めたい

このように思っている人はぜひ参考にしてください。

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不動産取引で出会う「落とし穴」と実例~そこから見える不動産取引における注意点とポイント

はじめに、不動産取引で出会う可能性があるトラブルやリスクなど「落とし穴」について解説するところからスタートしましょう。

注意点1.法律、規制の落とし穴~建築基準法のポイント

不動産取引に関わる法律や規制などは多く、しかも複雑なので、これらを知らないと思わぬリスクに巻き込まれる恐れもあります。

もちろん一般の人がそうした関連法令などをすべて覚えるのは大変なので、中でもこれだけは知っておくべきなのは「建築基準法」です。

ただ、いきなり具体的な話ではハードルが高いので、不動産取引を取り巻く法律について見てみましょう。

不動産取引に関係する法律

建築基準法の詳しい説明に入る前に、まず不動産取引に関する法律には以下のようなものがあります。

参考:不動産の「名義変更」。手続きの流れや必要書類など、相続や離婚などケース別に解説

参考:登記の名義変更は自分でもできる?期間・費用・必要書類について解説

参考:不動産の名義変更【ケース別】手続きから必要書類・費用まで徹底解説

不動産を取り巻く法律はいろいろある!

不動産を取り巻く法律や規制などは、数多くあります。

それらの内容をすべて理解する必要はありませんが、私たちがトラブルに遭わずに安心して取引するために、最低限の知識を身につけておくことは、とても大切なことです。

ここでは、不動産に関するテーマごとに、関係する主な法律や規制などを紹介します。

不動産取引と法律の関係

※図は不動産取引と法律の関係を理解しやすくするためのものであり、実際には、この図の関係とは異なる取引もあります。

1.不動産会社を規制する法律
  • 宅地建物取引業法
  • マンションの管理の適正化の推進に関する法律
  • 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
2.広告に関する法律や規制
  • 宅地建物取引業法
  • 不動産の表示に関する公正競争規約
3.売買や賃貸借などの契約に関する法律
  • 民法
  • 宅地建物取引業法
  • 借地借家法
  • 消費者契約法
4.権利関係に関する法律
  • 民法
  • 区分所有法(マンションの場合)
  • 借地借家法(貸借の場合)
  • 消費マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンションの場合)契約法
5.土地の利用に関する法律
  • 都市計画法
  • 国土利用計画法
  • 借地借家法(貸借の場合)
  • 消費マンションの建替え等の円滑化に関する法律(マンションの場合)契約法
6.建物の建築に関する法律
  • 建築基準法(新築・改築の場合)
  • 長期優良住宅の普及の促進に関する法律
  • 都市の低炭素化の促進に関する法律
7.不動産登記に関する法律
  • 不動産登記法
8.マンション管理に関する法律
  • 区分所有法
  • 区分所有マンションの管理の適正化の推進に関する法律法
9.住宅の契約不適合(欠陥など)に関する法律
  • 民法
  • 宅地建物取引業法
  • 住宅の品質確保の促進等に関する法律
  • 特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
10.空き家に関する法律
  • 空家等対策の推進に関する特別措置法

参考①:公益財団法人不動産流通推進センター 不動産ジャパン/不動産便利ツール/住まいの法律

建築基準法〜基本事項と不動産取引に関連する部分

次に、不動産取引で重要になる建築基準法の基本事項と、不動産取引に関連する部分をまとめてみました。

建築基準法〜基本事項と不動産取引に関連する部分

建築基準法とは?

建築基準法は、建物の建築について最低限の基準を定め、また建物の安全性や居住性などを確保することを目的とした法律のこと。

用途地域

都市計画法で定められ、それぞれの用途地域ごとに、建物の用途(住宅、商業施設、工場等)や、建築物の高さ・面積などを規定している。

建築基準法上の道路

道路には道路法で定める道(これがいわゆる道路として車や人が通行する)と、建築基準法で定める道路(「建築基準法上の道路」と表現)があり、両者は必ずしも一致していない場合があり、たとえば自動車が通行していても建築基準法条の道路でないこともある。
土地が上記「建築基準法上の道路」に2m以上接している(間口のこと)ことが、建物を建築する大前提
建築基準法上の道路にもいくつか種類があり、それぞれ建築基準法の条文から「42条1項1号道路(いわゆる公道で国道や県道などが該当)」などと表現される。
また建築基準法上の道路は道の幅(幅員)が4メートルであることが大前提だが、4メートルに満たない道路(42条2項道路など)に対しては、道幅が4メートルになるように、道に接している土地が後退、つまり道路に土地を提供しないとタレ者が建築できない場合があり、この後退を「セットバック」と呼ぶ。

参考②:和歌山県/不動産取引の重要事項説明に関連する建築基準法の基礎知識

建築基準法に関連した不動産取引トラブルの実例

不動産取引で、建築基準法に関するトラブルから裁判に発展した実例もいくつかあります。

建築基準法に関連して不動産取引トラブルの実例

分譲地の1区画を、Yから1200万円の融資を受けて購入したが、土地の前面道路は、個人所有の私道(建築基準法上の道路ではない)であり、所有者の協力が無いと建物が新築できない土地であった点を購入者に充分な説明をせず不動産取引をした。

用途地域として建物が建築できない「市街化調整区域」の土地であるにも関わらず、いかにも建物建築ができるかのような表現で不動産取引をおこない、購入者が建物を建てられずに裁判となった。(裁判実例より 筆者調べ)

これらは事例として悪質の度合いも高いのですが、このように不動産取引ではさまざまなトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。

こうしたトラブルは、銀行員として私も何度か出会ってきました。

そこでここから随所でそうした体験談も織り交ぜていきます。

注意点2.費用の落とし穴~手付金のポイント

不動産取引では様々な費用が、色々なタイミングで必要になってきます。

なかでも重要で、しかもトラブルや勘違いによる思わぬ損失が多い費用が「手付金」です。

手付金は「解約手付」とも呼ばれ、不動産取引の相手方(売主・買主)がそれぞれ自分から取引をやめたいときの金銭的保証の意味合いがあります。

たとえば買主の都合により契約を取りやめたい場合には、先に払ってある手付金を放棄することで解除が可能です。

いっぽう売主側の都合で契約を撤回する場合には、売主から受け取っている手付金の2倍の金額を支払うことで契約解除ができる原則です。(俗に言う「手付金の倍返し」)

ただし手付金の取り扱いや返金などではトラブルも多く発生しており、契約書類では手付についてしっかりと記載されているのか?記載されていなければ、どういった取り扱いになるべきかを自分で確認することが重要です。

ここまで、不動産取引でよくある「落とし穴」について解説しました。

ちなみに国土交通省の公開情報で、悪質な業者の情報が検索できるサイトやトラブルの実例などを見ることができます。

これは私も銀行員の仕事で利用したり、後輩への指導における参考事例で利用したりと活用していますので、参考にしてください。

参考③:国土交通省/ネガティブ情報等検索サイト

参考③:国土交通省 不動産適正取引推進機構/ 不動産トラブル事例データベース

【銀行員が不動産取引で出会った実例】地中に「何か」がある

不動産取引では、現地を自分の目で見ることが大事なのは、言うまでもありません。

しかし、自分が現地に行っても地中までは見ることができないのは当然なのですが、その地中にもリスクが潜んでいるというお話しを2つ紹介します。

土壌汚染があるかも?でも調べるには高額な費用が・・・

  • 「工場跡地を宅地分譲する計画で土地を購入したい」と、不動産業者であるお客様から相談があり、銀行員の私が調査をしました。現地は建物を壊し貸駐車場になっていたので、表面的にはすぐ分譲できそうな土地に見えました。しかし重要事項説明書に「土地にあった工場は化学製品を加工していたので、土壌が汚染されている可能性がある。ただし未調査であり、そのまま売買する」という注意事項が記載されていたのです。

このように、健康被害の恐れがある土地などは「土壌汚染対策法」という法律に基づき、県や市町村などで指定区域になっている場合があり、そういった土地は分譲などができない、つまりは「人が住めない、あるいは住むのに危険がある」土地ということになります。

実例の土地にはそういった指定はありませんでしたが、購入希望のお客様が市役所に相談したところ「土壌汚染の恐れがあるのでボーリングなど土壌汚染の調査をしたうえで宅地として分譲が可能か?市が審査する必要がある」と言われたそうです。

もちろん調査費用は自己負担となるのですが、見積もりを頼んだ専門業者からは少なくとも数百万円・調査によっては数千万円かかるかも知れないとの回答があり、最終的に購入を断念しました。

私がその土地を現地調査したときの第一印象は、周りをマンションや新築の一戸建て分譲地に囲まれ、その土地だけ広く残っていたので「駐車場ではもったいないな。

でも宅地にできない事情など『なにか』があるんだろうな?」と感じたことを覚えています。

実際にその土地には地中に土壌汚染という「何か」があった(調査していないので、正確には「あるかも知れない」)わけです。

みなさんも住宅地で長いあいだ「ポツン」と駐車場や空き地のままになっている土地を見かけたなら、その土地に潜む事情などを想像してみてください。

参考④:公益財団法人日本環境協会/土壌汚染対策法の概要

参考④:千葉県/土壌汚染対策法に基づく要措置区域 指定状況(一部解除を含む)

買った土地が「史跡」になるかも!

土地に古墳や遺跡などが残っている可能性がある土地などを、不動産取引では「周知の埋蔵文化財包蔵地」(あの土地には由緒正しい遺跡などが埋まっていると、周りの人が知っている土地という意味)という表現をします。

この埋蔵文化財包蔵地は、不動産取引で売買することは可能ですが、自宅を新築する工事などで遺跡が出てきた場合は速やかに役所へ報告して、学術調査が必要と判断された場合には調査が終わるまで、自宅の工事などはできなくなります。

当然ながら自宅を建てたいと買った人には一大事で、工事はストップするし、調査はいつ終わるか分からないし、万が一歴史的に重要な「史跡」にでもなったしまったら、その土地を明け渡す(どこがいくらで買い取るかも不明)羽目になるかも知れないのです。

そのためこういった不動産取引では重要事項説明書に「この土地は埋蔵文化財包蔵地(〇〇市指定第▲▲号・通称『★★遺跡』の一部に指定されており、工事を刷る際には市役所に・・・」などと注意書きが記載されています。

なお埋蔵文化財包蔵地については各市町村のホームページなどから検索することができますので、不動産取引を検討しているときに気になる場合の参考にできます。

歴史上、京都や政治の中心地だった場所、たとえば京都や奈良、鎌倉と言ったいわゆる古都に多く、東京都内も江戸時代の史跡や大名屋敷、あるいは横浜の明治期・お雇い外国人のお屋敷跡などがあげられます。

工事を始めて遺跡が出てくると調査が開始され、終わるまでは自宅工事がストップする一度ほって遺跡が出てきたからといって「見なかったことにして埋め戻す」などはできないのです。

(銀行の先輩から、過去ほんとうに埋め戻してしまい、あとからその隠蔽が発覚した実例があったと聞いたことがあります)

参考⑤:東京都教育委員会/東京都遺跡地図情報インターネット情報サービス

まとめ

今回は不動産取引注意事項やポイントなどを解説し、またいくつかの実例も交えてお話してきました。

銀行員として数多くの不動産取引に関わってきた私にとっては、不謹慎と言われるかも知れませんが、毎回新しい気付きを得ることもあり、不動産取引に関わることは楽しい仕事のひとつです。

ですが、実際に不動産売買の取引をする当事者にとっては「あんなことがあった」では済まされませんし、場合によっては人生を左右するくらいの問題になる可能性もあります。

ですから、やはり不動産取引は慎重に慎重を重ねる必要があると、銀行員の私は痛感しています。

この記事が皆さんの参考になれば幸いです。

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