身近な人が亡くなり相続が発生すると、事務手続きだけで手一杯になりますね。
不動産を相続して売却を考えている場合、不動産業者にせかされて売り急いでしまうかもしれませんが、売却前にきちんと戦略をたてましょう。
相続した不動産を売却する場合、「特例」とよばれる税法上のお得な制度があります。
ただし、これらの「特例」には条件(適用要件)が定められており、一定の条件を満たしてはじめて申告できる仕組みなので、売却前にご自分が該当するか確認が必要です。
筆者は、不動産会社で行政書士・宅建士として、不動産の売買に携わっていますが、相続した不動産を売却されるお客様は多くいらっしゃいます。
売主側になると、つい高く売ることに目が行きがちですが、課税所得を抑えることで、利益の手残りが大きく変わりますので、税金についても目配りしておきたいところです。
本コラムでは、相続不動産の売却で使える「特例」をご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 不動産売却を相続する時の手続き
- 不動産を相続する時にかかる税金
- 不動産を売却した時にかかる税金
不動産を相続する時の手続き
相続の全体の流れ
まず、相続が発生した時の流れを期限に注目して確認しましょう。
相続の手続きは、「いつまでに」が決まっているものが多く、この期限を頭に入れ、計画を立てながら進める必要があります。
最初にやってくる期限は、「7日以内」と「14日以内」です。役所への届出等、事務手続きがほとんどです。
次にやってくるのは、「3か月」と「4か月以内」の期限で、相続の放棄や準確定申告といった事前準備が必要な手続きになります。
そして、相続税の申告期限が「10か月以内」、遺留分侵害額の請求期限が「1年以内」となります。
- 死亡診断書を受け取る
- 死亡届の提出
- 火葬許可申請書の提出
- 世帯主の変更届の提出
- 国民年金、厚生年金の受給停止の手続き
- 国民健康保険・介護保険の資格喪失の手続き
- 相続放棄、単純承認、限定承認の決定
- 準確定申告
- 相続税の申告
- 遺留分侵害請額の請求
遺留分侵害額の請求とは、法定相続人が最低限取得できる、一定割合の相続財産を主張する権利です。
この権利を行使できるのは、被相続人の死亡日または相続開始を知った日から1年以内です。
不動産を相続する時の流れ
次に不動産を相続する時の手続きの流れを確認します。
不動産の相続は、下記の5つの段階に分けて考えていきます。遺言書の有無や遺産分割協議の内容により、実際に相続する内容や登記事項が決まります。
- 遺言書があるか確認する
- 相続人を確認する
- 遺産分割協議をする
- 相続登記、不動産の名義変更をする
- 相続税の申告をする
POINT 1. 遺言書があるか確認する
遺言書があり、財産の分け方や相続人が指定されている場合、基本的には、遺言書の内容に沿って相続されることになります。
遺言書には次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
公正証書遺言以外の場合、家庭裁判所で検認という手続きを受ける必要があります。検認を行わずに遺言書を開封すると、過料というペナルティを課されますので注意しましょう。
遺言書のなかで、相続人全員または相続人の一部に不動産を相続させるという記載があれば、その通りに名義変更登記を行います。
POINT 2. 相続人を確認する
遺言書がない場合は、基本的に法定相続人が被相続人の財産を相続することになります。
法定相続人の調査は、被相続人が生まれてから死ぬまでの戸籍謄本すべてを取得し、親族関係となる人を調べて行われます。このような調査を経て、法定相続人が最終的に確定します。
複数の相続人がいる場合、問題になるのが不動産の相続です。
不動産の相続には下記の4パターンがあります。
- 現物分割:分割して相続する方法(土地のみの相続で多い)
- 代償分割:特定の相続人が不動産を相続、他の相続人に金銭を渡す方法
- 換価分割:不動産を売却し、その代金を相続人で分割する方法
- 共有名義:複数の相続人が共有持分に応じて不動産を所有する方法
このなかで特に注意が必要なのが、共有名義による所有です。
不動産を共有名義にすると、売却や修繕等をしようとした時、共有者の持分割合によって意思が決定されます。持分による多数決のイメージです。
意見が分かれると、なかなか決定できず、身動きがとれなくなるケースもあります。共有にする場合は、共有者間の関係、管理や売却等、先を見据えて判断するようにしましょう。
POINT 3. 遺産分割協議をする
相続人と相続財産が確定したら、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、文字通り、相続人全員で遺産の分割について協議し、合意することです。
分割内容の合意ができたら、遺産分割協議書を作成します。この書類には、相続人全員の署名捺印が必要です。
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所にて遺産分割調停を申し立てることになります。遺産分割調停とは、裁判所という中立な立場から各相続人の意見を聞いて、解決案を提示しながら進められる、遺産分割の話し合いの場です。
調停でもまとまらない場合は、遺産分割審判へと移行し、裁判官が、遺産に属する財産や権利関係等の事情を考慮し、遺産分割の方法を決定することになります。
POINT 4. 相続登記、不動産の名義変更をする
相続財産の内容と相続人が確定したら、法務局に相続登記を申請します。
相続登記をすることで、被相続人から相続人へ所有者の名義が変更されます。相続登記の手続きには、申請書や添付書類等の書類、登録免許税、司法書士報酬等の費用が必要となります。
POINT 5. 相続税の申告をする
相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、税務署に相続税の申告・納付をします。申告期限を過ぎると、延滞税や加算税を課せられるので注意しましょう。

不動産を相続する時にかかる税金(相続税と登録免許税)
相続する時に発生する税金を確認しましょう。相続財産に不動産が含まれる場合は、名義変更が必要となります。
相続税
相続税は、財産を相続した人に課税されます。
財産といっても、亡くなった人の財産すべてが課税対象となるわけではなく、課税対象となるのは、現金・預貯金、株式等の有価証券、土地・建物等の不動産、絵画・書画骨董等です。
死亡保険金や死亡退職金等の「みなし相続財産」、相続開始前3年以内に贈与された財産や相続時精算課税制度で贈与された財産も課税対象となりますので、注意が必要です。
これらの課税対象から、非課税財産と債務・葬式費用等を差し引いたものが、「相続税の課税価格」となり、課税価格から「遺産に係る基礎控除額」を差し引いたものが、「課税遺産総額」となります。
相続税には、課税価格から一定額を控除する制度があります。この「遺産に係る基礎控除額」は下記で計算できます。
遺産に係る基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数
例えば、相続人が妻と子供1人の場合、3,000万円+600万円×2名=4,200万円という計算になり、4,200万円が「課税遺産総額」から控除され、この基礎控除額を超える相続財産がある場合に相続税が発生します。
登録免許税
不動産の所有者については、法務局が管理する登記簿に記載があり、売買等で所有者が変更すると、所有者変更の手続きをします。相続も同様に所有者変更の登記を申請する必要があります。
そして、この変更登記を申請する時に発生する税金が、登録免許税です。登録免許税の計算式は下記の通りです。
登録免許税額 = 土地と建物の固定資産税評価額 × 0.4%
固定資産税評価額は、所有者に送付される「課税明細書」、または、役所で取得できる「固定資産評価証明書」で確認することができます。
なお、固定資産税評価額は土地と建物、それぞれ別々に定められており、その両方に登録免許税がかかります。
不動産を売却した時にかかる税金
不動産を売却すると様々な税金が発生します。売却のタイミングでどのような税金がどれくらい発生するか具体的に確認していきましょう。
譲渡所得税(所得税・住民税)
不動産を売却して利益がでると、その利益(譲渡所得)に対して課税されます。不動産売却時の利益は、個人の所得とみなされ、給与や個人事業主の収入と同様に所得税、住民税が課されます。
不動産売却時にかかる税金を「譲渡所得税」といいますが、正式には「所得税」と「住民税」のことです。譲渡所得の計算は下記の通りです。
不動産の譲渡所得 = 譲渡収入金額 ‐(取得費 + 譲渡費用)
「譲渡収入金額」は、不動産の売却金額です。
「取得費」とは、売却した不動産を購入した時の売買代金に、仲介手数料や税金などかかった経費を加えた金額です。
「譲渡費用」は、売却する時に発生した経費です。例えば、仲介手数料、印紙税、建物解体費、借地の名義書換料等、が該当します。
不動産の譲渡所得にかかる税率は、売却不動産の所有期間によって異なります。
不動産を売った年の1月1日現在でその不動産の所有期間が5年を超える場合は、「長期譲渡」となり、税率は20.315%です。
不動産の所有期間が5年以下の場合は、「短期譲渡所得」となり、税率は39.63%です。このように所有期間が5年を超えるかどうかで、税率が約倍にも変わってきます。
なお、所有年数の判断基準は、売却した年の1月1日時点となりますので、注意が必要です。
所得税率 | 住民税率 | 合計の税率 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 (所有期間5年未満の場合) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 (所有期間5年超の場合) | 15.315% | 5% | 20.315% |
復興特別所得税
復興特別所得税は、2013年から課税が始まった税金で、所得税を納めるすべての個人が対象です。
給与所得のある会社員でしたら、自動的に天引きされています。
不動産の売却においては、必ずしも発生するわけではなく、譲渡所得税と同じく課税対象となる譲渡所得がマイナスの場合は発生しません。
復興特別所得税は、2段階の計算で算出します。
まず、譲渡所得に、短期譲渡、もしくは、長期譲渡の税率をかけて基準所得税額を算出します。
次に、復興特別所得税率をかけますが、特別所得税の課税額を計算する場合は、税率は一律2.15%で計算します。
この税率は一律で、課税対象金額や所有条件等に影響されず、納税者の所得額等も関係ありません。
印紙税(売買契約書に貼付)
通常、不動産を売却する際は、不動産会社が仲介に入り、契約書を作成して売買契約を締結します。
売買契約書には、売買価格に応じた印紙を貼付することが税法で定められています。
例えば、不動産の価格が5,000万円の場合は10,000円の印紙を、1億円の場合は30,000円の印紙を貼付します。
特例
不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税を軽減する特例があります。
ただし、これらの特例は、誰でも、どのような不動産にでも、使えるわけではなく、それぞれ利用できる条件(適用要件)が定められています。
例えば、対象不動産がマイホームや空き家であること、所有期間が10年超であること等、不動産や所有期間の条件が厳密に決まっています。
特例の適用要件、提出書類、申請方法等の詳細は、国税庁のサイトに掲載されていますので、そちらもご参照ください。
特例は、売却する前に、必ずチェックしておきたい重要ポイントです。
また、特例の適用はご自身で申請(申告)する必要があります。条件に該当していても申請しないと適用されませんので、ご注意ください。
居住用不動産の3,000万控除の特例
居住用の不動産、いわゆるマイホームを相続し売却する場合に適用される特例です。被相続人と同居している相続人が不動産を相続した後に売却する場面で利用しやすいでしょう。
文字通り、不動産を売却して得た譲渡所得から3,000万円が控除されるので、譲渡所得が3,000万円以下であれば、所得税は発生しません。
- 現在、自らが居住している家屋であること(マイホーム)
- 住まなくなってから3年を経過する日の年の12月31日までに売却すること
- 住まなくなってから家屋を取り壊した場合、転居後、3年後の12月31日までか、取り壊した後の1年以内か、いずれかの早い日までに売却すること
相続した空き家売却の3,000万控除の特例
空き家問題対策の一環として設けられた特例です。
現在、木造戸建ての空き家が増加しており、地震時の倒壊や防犯上の問題が指摘されています。
国はこのような空き家を減らす目的で、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」を制定、翌2016年には、相続で発生した空き家の流通を後押しするため「相続空き家の3000万円特別控除」を制定しました。
このような制度の趣旨から、「区分マンション」と、旧耐震基準である「1981年5月31日以前に建築された家屋」は除外されています。
なお、建物を解体し土地として売却する場合も一定の条件を満たせば適用されます。
- 相続開始の直前まで被相続人が居住していた家屋であること
- 区分所有建物(マンション等)以外の家屋であること
- 1981年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続の開始直前まで被相続人以外に居住していた者がいなかったこと
- 相続の時から譲渡の時まで賃貸していないこと
取得費加算の特例
被相続人が亡くなった日から3年10カ月以内に相続した財産を売却した場合に使える所得税の特例です。譲渡所得から財産を取得した時の費用をマイナスし、譲渡所得を減らすことができます。
遺贈では適用されますが、生前贈与では原則、適用されないのでご注意ください。
3,000万円控除や買換え特例と併用可能です。
- 相続で取得した財産であること
- 相続税を支払った人であること
- 確定申告をすること
- 相続財産を相続の開始のあった日の翌日から相続税の申告期日の翌日以降3年を経過する日までに売却していること
所有期間10年超の不動産に対する軽減税率
所有期間10年を超えた不動産を売却する時に使える軽減税率です。
10年以上所有している不動産を売却する際には、ぜひ活用したい特例です。
3,000万特別控除と併用することもできます。
この軽減税率は、譲渡所得税が発生する場合、大きなメリットがあります。
譲渡所得が6,000万円を超える場合、6,000万円以上と以下で税率が変わり、通常、譲渡所得税や住民税などを合わせると約20%の税率になりますが、特例が適用されれば約14%にまで税率が下がります。
譲渡所得の金額 | 6,000万円以下の部分 | 6,000万円超の部分 |
---|---|---|
所得税 | 10.21% | 15.315% |
住民税 | 4% | 5% |
合計の税率 | 14.21% | 20.315% |
- 譲渡した年の1月1日において、家屋と土地を10年を超えて所有していること
- 親族以外の第三者に譲渡すること
- 住んでいる住宅か、居住をやめてから3年以内の家屋であること
- 過去3年の間に所有期間が10年を超える場合の軽減税率の特例を受けていないこと
- 過去3年の間に3,000万円特別控除の特例を受けていないこと
- 住まなくなった日の3年後の12月31日までに売却すること
特定居住用財産の買換え特例
大前提として、買換え特例は、税金を繰り延べる(先延ばしにする)制度です。
控除や軽減税率の特例では、税金が安くなるという分かりやすいメリットがありますが、買換え特例の場合、買換え後の不動産を売却する時に課税が発生するという納税期限の繰り延べというメリットが特徴です。
例えば、マイホームを売却して新しい不動産に買換える場合、元のマイホームの譲渡利益にかかる税金を先送りできるということです。
したがって、この買換えでは譲渡所得税等は課税されず、買換え後の住宅を売却する時に、課税されるというわけです。
また、適用されるためには、旧物件(現在所有している不動産)と新物件(これから取得する不動産)両方が条件を満たしている必要があります。
なお、3,000万円控除とは併用不可ですので、ご注意ください。
- 居住用不動産で所有期間が10年以上、居住期間が10年以上であること
- 売却価格が1億円以下であること
- 前年の1月1日から譲渡した年の翌年の12月31日までの間に買換えること
- 取得する個人が居住する土地家屋であること(借地権含む)
- 住宅家屋の床面積は50㎡以上、土地の面積は500㎡以下であること
- 中古住宅の場合は、一定の耐震基準(新耐震基準)を満たしていること
- 耐火建築物でない場合は、建築後年数が25年以内であるか、一定期間内に新耐震基準を満たしていることを証明すること
確定申告は必要?不要?
確定申告が必要な場合と不要な場合
不動産を相続しただけで確定申告をする必要はありません。相続不動産から収入が発生した場合、確定申告が必要となります。代表的なケースは下記です。
- 相続した不動産から賃貸収入等がある時
- 相続した不動産を売却した時
- 相続した不動産を現金化して分割した時
相続した不動産から収入がある場合
相続した不動産から賃貸収入がある場合、被相続人が亡くなった年の1月1日から相続が発生した日までの収入は、すべて被相続人のものとして確定申告を行います。
相続が発生した日以降に得られた収入については、その不動産を相続する「相続人」の収入として確定申告を行います。
例えば、6月1日から相続が発生した場合、1月1日~5月31日までの収入は被相続人の収入として確定申告を行い、6月1日~12月31日までの収入は相続人の収入として確定申告を行うことになります。
収入から費用(管理費・修繕費・減価償却費等)を差し引いた部分「不動産所得」を申告します。
相続した不動産を売却した場合
売却で利益を得た場合、「譲渡所得」として確定申告が必要です。
相続した不動産を譲渡した場合は、一定金額が相続税から譲渡資産取得費として差し引かれる「遺産を譲渡した場合の取得費の特例」を適用することができます。
相続した不動産を現金化して分割した場合
複数の相続人がいる場合、相続不動産を売却し現金に換えて分割する場合があります。このような相続を換価分割といいます。
相続不動産を売却して発生した売却益は、「譲渡所得」として相続が発生した日から12月31日までの収入として申告する必要があります。
換価分割を行った場合、相続した全員に所得が発生したと解釈されるため、相続人全員が確定申告を行う必要があります。
まとめ
相続が発生すると、一定の期間内に多くの手続きをする必要があります。不動産を相続した場合は、所有者の名義変更や売却の検討等、するべきことがさらに増えます。スケジュールを意識して取り組みましょう。
不動産を売却する時は、後の納税まで考慮しながら進めます。税金は現金で納付しますので、資金計画が大切です。
まず、「不動産相続時に発生する税金」と「不動売却時に発生する税金」に分けて考え、「売却時に発生する税金」については、特例を使って軽減できる可能性がありますので、必ず確認します。
特例の適用要件は、細かく定められています。国税庁のサイト等で調べても、ご自分のケースが該当するかどうか、判断が難しい場合は、国税庁の相談センターや税務署、税理士に相談しましょう。
- 相続の手続きは「いつまでに」が決まっているものが多いため、期限を頭に入れて計画的に動くことが重要
- 相続不動産から収入が発生した場合、確定申告が必要となる
