土地を相続した方や、今後相続する予定がある方のなかには、相続した土地を売却するのにいくらの税金がかかるのかと不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
相続した土地の売却はタイミングによって税金が変わるため、正しい知識を身につけたうえで売却する必要があります。
そこで本記事では、売買仲介の営業として数多くの相続案件をサポートしてきた筆者が、相続した土地の売却にかかる税金の種類や費用、受けられる控除について解説します。
本記事を読んでいただければ、相続した土地を売却する全体像がわかるため、相続が発生した際に適切に対処できるでしょう。
土地を相続した方やこれから相続する予定がある方は、ぜひ参考にしてください。
相続した土地を売却する際にかかる税金
相続した土地を売却する際にかかる税金は以下の表のとおりです。
税金 | 支払う時期 |
---|---|
印紙税 | 売買契約時 |
登録免許税 | 引き渡し時 |
譲渡所得税 | 売却した翌年の確定申告時 (例年2月16日〜3月15日) |
それぞれ支払う時期や金額が異なるため注意しましょう。3つの税金について詳しく解説します。
印紙税
印紙税とは印紙税法に定められている課税文書に対して課される税金です。
不動産取引の場合は売買契約書や領収書(個人が売主の場合は投資用不動産のみ)が課税文書に該当するため、記載金額に応じた所定の印紙を貼付する必要があります。
記載金額に応じた印紙税は以下の表を参考にしてください。
記載金額 | 印紙税(売買契約書) |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
50万円以下 | 200円 |
100万円以下 | 500円 |
500万円以下 | 1,000円 |
1,000万円以下 | 5,000円 |
5,000万円以下 | 10,000円 |
1億円以下 | 30,000円 |
5億円以下 | 60,000円 |
10億円以下 | 160,000円 |
50億円以下 | 320,000円 |
50億円超え | 480,000円 |
記載金額のないもの | 200円 |
※軽減税率適用
(平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるもの)
土地の売買契約時には不動産会社に印紙代を支払う、もしくは所定の印紙を持参するのが一般的です。
登録免許税
登録免許税とは、登記を申請する際に課される税金です。相続した土地を売却する際には、大きく分けて2つの登記が必要になります。
- 相続登記
- 抵当権抹消登記
相続登記とは、被相続人から相続人に名義変更する登記です。不動産は所有者しか売却できないため、相続した土地を売却する際には、被相続人の名義から相続人の名義に変更しなければいけません。
相続登記にかかる登録免許税は以下のとおりです。
登録免許税額=課税標準(固定資産税評価額)×0.4%
また、抵当権抹消登記とは、ローンを組んだ際に金融機関から設定されている抵当権を抹消するための登記です。
抵当権は不動産を差し押さえる権利であるため、抵当権を抹消してからでなければ所有権を移転できません。
抵当権抹消登記にかかる登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地が複数に分筆されている場合は、分筆されている数だけ費用がかかるため注意しましょう。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産を売却して利益が出た場合に課される税金です。
譲渡所得税の計算式は以下のとおりです。
譲渡所得税=譲渡所得×税率
なお、譲渡所得税を求める際に必要な「譲渡所得」の計算式は以下のとおりです。
譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除額
各用語の意味は以下を参考にしてください。
- 譲渡所得=利益
- 譲渡価額=売却価格
- 取得費=購入価格+購入諸費用
- 譲渡費用=売却諸費用
税率は所有期間によって大きく異なるため、売却時には必ず所有期間を確認しましょう。
短期譲渡所得 (所有期間5年以下) |
長期譲渡所得 (所有期間5年超え) |
所有期間10年超えの軽減税率の特例 |
|
---|---|---|---|
所得税 | 30% | 15% | 10% |
住民税 | 9% | 5% | 4% |
復興特別所得税 | 0.63% | 0.315% | 0.21% |
合計 | 39.63% | 20.315% | 14.21% |
所有期間10年超えの軽減税率の特例を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。家屋を取り壊してからの期限などが設定されているため、要件を確認しておきましょう。
詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。
相続した土地を売却する際のポイント
相続した土地を売却する際のポイントは以下の3つです。
- 所有期間は引き継がれる
- 取得費に関する書類を集めておく
- 利益が出た場合は確定申告が必要
それぞれについて詳しく解説します。
所有期間は引き継がれる
相続した土地を売却する際には、所有期間が引き継がれます。
所有期間が引き継がれることで譲渡所得税の税率が変わるため、被相続人がいつ不動産を取得したかを確認しておきましょう。
とくに短期譲渡所得(税率39.63%)と長期譲渡所得(税率20.315%)では、税率が倍近く異なります。
売却後の手残り資金を増やすためにも、必ず所有期間を確認してから売却しましょう。
取得費に関する書類を集めておく
相続した土地を売却する際には、取得費に関する書類を集めておきましょう。
譲渡所得税は課税所得に対して課されるため、取得費をしっかりと申請して課税所得を圧縮できれば、その分の節税効果を得られます。
具体的には、購入時の売買契約書や仲介手数料の領収書、登記費用の領収書などです。
たとえば、3,000万円で購入した土地が4,000万円で売れた場合、差額の1,000万円が課税対象になります。しかし、仲介手数料や登記費用などの領収書を集めて200万円分の取得費がかかっていたことを証明できれば、課税対象は800万円まで圧縮されます。
また、確実に用意しておきたい書類は購入時の売買契約書(もしくは領収書)です。購入時の売買契約書がなければ購入時の価格を証明できないため、概算取得費
として計算することになります。
概算取得費は売買代金の5%です。つまり、4,000万円で土地を売却できた場合、その土地の概算取得費は200万円として扱われ、差額の3,800万円に税金が課されます。
売買契約書があるのとないのとでは税金に大きな差が出るため、購入時の売買価格がわかる書類を探しておきましょう。
利益が出た場合は確定申告が必要
相続した土地を売却した後に確定申告が義務付けられているのは、利益が出た場合のみです。購入時よりも価格が下がり売却損が発生した際には、確定申告の義務はありません。
なお、利益の算定基準になるのは「特別控除額」を適用する前の数値です。譲渡所得(利益)を求める計算式は以下のとおりです。
譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除額
「特別控除額」は確定申告をした後に適用されるかどうかが決まるため「特別控除額」を差し引く前の金額がプラスであれば確定申告をしなければいけません。
そのため、確定申告の有無は以下の計算式で求めましょう。
譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用
確定申告を怠ると追徴課税を受ける恐れもあるため注意しましょう。
相続した土地を売却する際に受けられる控除
相続した土地を売却する際に受けられる代表的な控除は以下の2つです。
- 取得費加算の特例
- 相続空き家の3,000万円特別控除
なお、上記2つの控除は併用できないため注意しましょう。それぞれの控除を詳しく解説します。
取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、土地に課された相続税を譲渡所得税の取得費に加算できる特例です。
相続税分の金額を取得費に加えることで、譲渡所得を圧縮できるため、譲渡所得税を抑えられます。
具体的な計算式は以下のとおりです。
譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-相続税額(取得費加算)
なお、取得費加算の特例を受けるには要件/q>を満たす必要があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- 財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに売却すること
とくに気をつけなければならないのは3つ目の条件です。取得費加算の特例を利用するには相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)の翌日から3年以内に売却しなければいけません。
つまり、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する必要があると覚えておきましょう。
相続空き家の3,000万円特別控除
相続空き家の3,000万円特別控除とは、要件に該当する物件を売却した場合、譲渡所得から3,000万円まで控除できる制度です。
相続空き家の3,000万円特別控除の対象になるのは、以下のような物件です。
- 昭和56年5月31日以前に建築されている
- 区分所有建物登記(マンション)がされていない
- 相続開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいない
さらに、売却する際に以下のどちらかの要件を満たす必要があります。
- 耐震基準を満たす状態にリフォームして売却する
- 空き家を取り壊し更地にして売却する
相続空き家の3,000万円特別控除の適用を受けた場合、課税所得が3,000万円を超える方以外は非課税で土地を売却できます。
より詳しい内容は国税庁のホームページをご覧ください。
不動産を相続・売却する際の注意点
不動産の相続や売却は一生で何度も経験するものではありません。いざという時に困らないためにも、事前に相続・売却の注意点を把握しておきましょう。
不動産を相続・売却する際の注意点は以下のとおりです。
- 遺産分割協議書を作成してからでなければ売却を開始できない
- 基礎控除額を上回る場合は相続税の申告・納付が必要になる
- 相続税の減額を受ける場合は相続から10ヶ月以内に売却しない
- すぐに売却しない場合は控除の適用期間を把握しておく
- 手残り金額を踏まえて売却する
それぞれについて解説します。
遺産分割協議書を作成してからでなければ売却を開始できない
相続した不動産は遺産分割協議書を作成してからでなければ売却を開始できない点に注意しましょう。
不動産は所有者でなければ売却できません。遺産分割協議書ができるまでは誰が所有者(相続人)になるかが未定の状態であるため、販売を開始できないことを覚えておきましょう。
基礎控除額を上回る場合は相続税の申告・納付が必要になる
相続が発生した際には、基礎控除額を上回ると相続税の申告・納付が必要になります。
基礎控除額の計算式は以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
つまり、法定相続人が3人いる場合は4,800万円までは非課税になります。なお、相続財産に組み込まれるのは不動産だけではないため注意しましょう。
相続税を計算するには、現金や不動産、貴金属など、すべての遺産を確認する必要があります。
相続税の減額を受ける場合は相続から10ヶ月以内に売却しない
相続税の減額を受ける場合は、相続から10ヶ月間は売却しないようにしましょう。
相続税の減額を受けるには「小規模宅地の特例」という制度を利用するのがおすすめですが、小規模宅地の特例を利用するには相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで、土地を保有していなければいけません。
小規模宅地の特例は、被相続人が自宅や事業用地として使用していた土地の相続税評価額を50%または80%減額する制度です。
賢く節税するためにも、各種控除などの条件を確認しておきましょう。
すぐに売却しない場合は控除の適用期間を把握しておく
相続した土地をすぐに売却しない場合は、控除の適用期間を把握しておきましょう。
たとえば、先述した「取得費加算の特例」と「相続空き家の3,000万円特別控除」の場合、適用期間は以下のとおりです。
- 取得費加算の特例:相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに売却する
- 相続空き家の3,000万円特別控除:相続開始から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却する
売却を後回しにした結果、本来受けられるはずの控除を受けられなくなる恐れもあるため、必ず期間を確認しておきましょう。
また、相続人が複数いる場合は、それぞれの署名捺印が必要になるため売却を開始するまでに時間がかかることもあります。
慌てて売却することにならないように、スケジュールには余裕を持っておきましょう。
手残り金額を踏まえて売却する
相続した土地を売却する際には、手残り金額を踏まえて売却しましょう。
相続した土地の売却には、印紙税や登録免許税、譲渡所得税などさまざまな税金がかかります。
さらに、不動産会社に支払う仲介手数料もあるため、売却価格がそのまま手元に残るわけではありません。
売却する前に大まかな手残り金額は試算できるため、不動産会社に相談しながら資金計画を立てておきましょう。
まとめ
本記事では、相続した土地の売却にかかる税金の種類や費用、受けられる控除について解説しました。
相続した土地を売却する際にかかる税金は大きく分けて3つです。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
それぞれ支払う金額や時期が異なるため注意しましょう。
また、譲渡所得税は所有期間によって大きく税率が異なるため、賢く節税するためにも正しい知識を身につけておきましょう。
土地の相続は一生に何度も経験するものではないため、相続が発生した際に慌ててしまう方も多くいます。いざという時に落ち着いて対応するためにも、本記事で解説した内容を押さえておきましょう。