【2023年相続税法改正】新しい相続時精算課税制度とは?

  【2023年相続税法改正】新しい相続時精算課税制度とは?

2023年度税制改正から相続時精算課税制度が改正され、相続時精算課税制度を選択しても年間110万円までの暦年贈与が利用できるようになりました。この記事では改正内容を改めて具体的なケースを例に詳しく解説していきます。

手塚 大輔
【執筆・監修】手塚 大輔

地方銀行に10年弱勤務した後、現在は飲食店を起業しており、プロのライターとしてもSEO記事、コピーライティングなどを行なっております。 銀行では、預金業務、カードローン、住宅ローン、企業の運転資金、設備資金、起業開業支援、保険販売、投資信託販売などの他、企業の決算書の審査など経験。

【保有資格】ファイナンシャルプランナー

2023年度税制改正から相続時精算課税制度が改正され、相続時精算課税制度を選択しても年間110万円までの暦年贈与が利用できるようになりました。

新たに非課税枠が増えたため、一見するとメリットがあるようにも思えますが、注意点もあるため、制度の変更点をしっかりと理解して制度を利用するかどうか慎重に検討する必要があります。

相続時精算課税制度の仕組みと、制度改正による変更点について詳しく解説していきます。

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度は生前の贈与分の相続財産に含めることができる制度です。

一定の条件に該当した累計2,500万円までの贈与について贈与税が非課税になり、贈与者が死亡した際に相続時精算課税制度によって贈与した財産を相続財産に含めて相続税を算出します。

制度の詳細について詳しく見ていきましょう。

累計2500万円までは贈与税がかからない

相続時精算課税制度とは、累計2,500万円までの生前贈与については、贈与税が非課税になるという制度です。

通常、年間110万円を超える贈与については、贈与税が課税されます。

しかし相続時精算課税制度選択届出書を税務署へ提出して、本制度の適用を受けると、制度の開始から合計で2,500万円までの贈与に関しては贈与税がかかりません。

なお、贈与を行なったもののうち2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税が発生します。

被相続人が死亡した後は、すでに贈与を受けた財産と相続財産を合算して相続税を計算します。

この際に、すでに納付した贈与税がある場合には、当該贈与税を精算した差額が相続税の納付額です。

制度の対象者と条件

相続時精算課税制度を利用するには、贈与を行う「贈与者」と贈与を受ける「受贈者」が一定の条件に合致していなければなりません。

それぞれの条件は次の通りです。

年齢 関係
贈与者 贈与をした年の1月1日時点で60歳超 受贈者の父母または祖父母
受贈者 贈与をした年の1月1日時点で18歳または20歳を超えている 贈与者の直系卑属(子ども・孫)の推定相続人、または孫

相続時精算課税制度の適用を受けられるのは、贈与者が死亡した際に相続人である必要があるので、上記の条件に合致していないと利用できません。

節税効果はないが納税を先延ばしにできる

相続時精算課税制度は、税金が免除されるわけではありません。

贈与税は課税されませんが、贈与者が死亡後に相続したことと同じ課税関係になるというだけです。

しかし、生前の贈与であっても本制度を利用すれば贈与税ではなく、贈与税よりも税率が低い相続税で納税できる点はメリットです。

また、本来であれば贈与者が死亡後にならないと自分の財産として使用できない財産を、本制度を利用することで贈与者が生存中から自分の財産として使用できる点もメリットです。

「税金が免除される」とか「税率が下がる」などの直接的な節税効果はありませんが、贈与税ではなく相続税を贈与者が死亡後に支払えるという特徴を理解して、適切に活用しましょう。

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相続時精算課税制度に法改正による変更点

2023年の税制改正によって変更になった、相続時精算課税制度の変更点は主に次の2点です。

  • 年間110万円の基礎控除の創設
  • 暦年課税制度での生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長

年間110万円までの非課税の贈与枠が新設されたので、非課税枠が大きくなったことは間違いなくメリットです。

しかし、生前贈与加算が3年から7年に延長されたので、贈与はある程度計画的に行っておかなければなりません。

相続時精算課税制度の変更点を詳しく解説していきます。

年間110万円の基礎控除の創設

制度改正によって相続時精算課税制度を選択しても、年間110万円までの贈与は贈与税が課税されない基礎控除が創設されました。

制度改正前は、相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与制度と同時の利用ができないため、年間110万円の贈与の非課税枠は消滅していました。

制度改正によって、相続時精算課税制度を選択しても、「年間110万円の贈与の非課税枠」は消滅しません。

改正後に相続時精算課税制度を選択すると、「累計2,500万円の贈与+年間110万円の贈与」が非課税になります。

相続税も贈与税の申告も必要ない

年間110万円の基礎控除の範囲内で行われた贈与については、相続税も贈与税の申告も全く必要ありません。

暦年課税の際の110万円の贈与と同じように、申告なしで贈与を行うことができます。

なお、改正の内容は2024年1月1日以降の贈与に対して適用されます。

暦年課税制度での生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長

相続時精算課税制度の改正で、年間110万円の基礎控除ができたことは、確かに贈与者・受贈者にとってメリットです。

しかし税制改正によって贈与者・受贈者にとってデメリットになる改正点もあります。

それが「暦年課税制度での生前贈与加算が死亡前3年から7年に延長」されたという点です。

これまで、相続時精算課税制度を選択しなかった場合、従来は死亡前3年以内の贈与は相続財産として加算されました。これを生前贈与加算といいます。

これは、被相続人死亡前の駆け込みの贈与を防ぐための制度です。

制度改正によって、生前贈与加算期間が7年に延長されました。

制度改正後は、被相続人が死亡前7年以内の贈与は、贈与額全体から100万円を控除した金額が相続財産として加算されます。

相続時精算課税制度を選択する人は110万円の基礎控除が増えるメリットがある一方、暦年贈与を選択する方は生前贈与加算期間が増えるので制度改正はデメリットだと言えます。

国としては、現役世代への財産の移転を促進する意図を持って、相続時精算課税制度の利用を後押しする目的があると言えるでしょう。

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相続時精算課税制度に向いている3つの場面

相続時精算課税制度を選択することにメリットがある場面は次の3つです。

  • 多額の贈与が発生する時
  • 将来的に財産の値上がりが見込める
  • 相続する財産があまり多くない

贈与する財産が多い場合も少ない場合も活用できますし、将来的に値上がりが見込める財産は本制度を活用して早めに贈与しておくことで大きな節税効果が期待できます。

多額の贈与が発生する時

受贈者が何らかの事情によって多額の資金が必要になった場合に相続時精算課税制度を利用することで税負担なく、資産の移転が可能です。

もしも暦年贈与制度のもとで親が子へ必要資金1,000万円を贈与した場合、110万円を控除して890万円が贈与税(特例贈与)の課税対象となり、税額は177万円にもなります。

しかし、その際に相続時精算課税制度を利用すれば、贈与時には税金は課税されません。

また、贈与額1,000万円に対する贈与税の税率は特例贈与の場合は30%ですが、相続税であれば10%と、将来的に相続税を支払った方が金銭的なメリットもあります。

多額の贈与が必要になった場合には暦年課税よりも相続時精算課税制度の方が負担なく資産の移転ができます。

将来的に財産の値上がりが見込める

将来的に値上がりが見込まれる財産を贈与する際にも、相続時精算課税制度を利用することでメリットが生じます。

相続時精算課税制度を使用して、最終的に相続税を計算する際には、贈与を受けた財産の金額は贈与を受けた際の評価額で算出するためです。

2023年に次のような評価額の土地を贈与したケース

  • 2023年の評価額:1,000万円
    2040年の評価額:3,000万円
    2023年に相続時精算課税制度を使用して土地を贈与した場合、2040年に相続が発生した際も贈与時の評価額である1,000万円で相続税を計算できます。
    しかし、相続時精算課税制度を利用せず、2040年に相続が発生した場合には、その時の評価額である3,000万円で相続税を計算しなければなりません。

将来的に値上がりが見込まれる財産があるのであれば、相続時精算課税制度を活用して、値上がり前の価格で相続税計算の基準となる金額を確定させておいた方がメリットがあります。

「将来的に値が上がるだろうから、相続が心配」という方は、相続時精算課税制度の活用を検討しましょう。

相続する財産があまり多くない

相続する財産があまり多くないのであれば、相続時精算課税制度を利用して、あらかじめ贈与した方がよいケースがあります。

相続税は次のような大きな非課税枠があります。

「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人数)」

生前贈与を受ける財産と相続財産の合計が上記の金額の範囲内であれば、相続時に財産を相続しても、相続時精算課税制度を利用して贈与を受けても、税金はかかりません。

早期に財産を移転することで、相続人の相続人の教育資金や住宅資金など現役世代の活用の幅は広がります。

相続時精算課税制度の注意点

相続時精算課税制度を利用する際には次の3つの点に注意してください。

  • 年間110万円超の贈与は贈与税申告が必要
  • 一度制度を適用すると、通常の暦年課税制度に戻せない
  • 小規模宅地等の特例が適用されない

3つの注意点について詳しく解説していきます。

年間110万円超の贈与は贈与税申告が必要

制度改正によって、相続時精算課税制度を選択しても年間110万円までの基礎控除が創設されました。

これによって110万円までの贈与であれば申告不要で贈与税はかかりませんが、110万円を超える贈与を行う場合には少額でも贈与税の申告を行い、贈与税を納めなければなりません。

一度制度を適用すると、通常の暦年課税制度に戻せない

相続税精算課税制度を選択し、一度制度を適用してしまうと、通常の暦年課税制度に戻すことは不可能です。

相続時精算課税制度は、非課税枠を超える贈与については一律20%の税率ですが、暦年課税を選択した場合は10〜55%の税率が適用されます。

したがって、暦年課税を選択した方がメリットがある場合もあります。

また、暦年贈与の場合には贈与を受けた分は相続財産に加える必要はありませんので、特定の相続人へ財産を移したい場合には、暦年贈与の方が向いています。

このように、暦年贈与を選択した方がメリットがある場合も多いですが、一度相続時精算課税制度を選択してしまうと、暦年課税には戻せません。

相続時精算課税制度を選択するか否かは、慎重に検討してください。

小規模宅地等の特例が適用されない

相続税の計算の際には、小規模宅地等の特例という制度が用意されていますが、相続時精算課税制度を適用すると、この特例が適用されません。

小規模宅地の特例とは、相続税の支払いによって被相続人が自宅を手放さなければならない事態を防ぐことを目的とした制度です。

具体的には、被相続人等の居住の用に供されていた330平方メートル以下の宅地を相続した場合は評価額が80%減額になります。

1億円の評価額の土地が2,000万円になるということですので、相続税の支払いでは非常に大きなメリットです。

相続時精算課税制度を適用して宅地の贈与を受けると、小規模宅地の特例が受けられません。

宅地の生前贈与を受ける場合には、その土地に小規模宅地等の特例が受けられるのかを確認し、相続時精算課税制度を適用するかどうか慎重に検討してください。

まとめ

2023年の税制改正によって相続時精算課税制度が改正になりました。

主な変更点は「110万円の基礎控除が創設された」という点です。

これまでは相続時精算課税制度を適用すると、110万円の基礎控除枠が消滅してしまったため、適用を避ける人も多かったですが、今後は相続時精算課税制度を選択しても年間110万円までの贈与は別枠で非課税です。

制度改正によって利用しやすくなったことは間違いありませんが、一度選択すると暦年課税に戻すことはできず、小規模宅地等の特例を使用できない点は変わりません。

制度改正によってメリットも増えたため、生前に贈与したい財産がある方は、メリット・デメリットをしっかりと理解して、相続時精算課税制度の適用を慎重に検討しましょう。

参照1:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

参照2:新しい相続時精算課税制度とは 年110万円まで非課税に

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