不動産売却における委任状について|正しい作成手順と注意点を徹底解説

  不動産売却における委任状について|正しい作成手順と注意点を徹底解説

本記事では、不動産売却の契約時に売主本人が立ち会えない場合に使用する委任状について、基礎知識から書き方の注意点まで詳しく解説していきます。ダウンロードできるテンプレートも用意していますので、そちらもぜひご活用ください。

大滝義雄
【執筆・監修】大滝義雄

普段は、業務歴20年の建設業支援専門の行政書士です。文章を書くことが好き&得意で、行政書士業務の傍ら、公的機関などで不動産、法律関係の専門性の高い記事を執筆。専門的な資料を精読したうえで、一般の方に向けて、正確かつ分かりやすく書くことを心がけており、好評を頂いております。ライターの仕事は知識を吸収し整理することにもつながるので、これからもコツコツ続けていきます。

【保有資格】行政書士&法律行政専門ライター

不動産売却時には委任状を用意しなければならないこともあります。

不動産売却の際は売主本人が手続きを進めるのが原則ですが、売買契約締結の場面で売主本人が立ち会うことが難しい場合は、代理人を選んで委任状を交付し、代わりに土地や物件の売却を進めてもらうことになります。

この際の委任状の役割と記載事項について解説します。

不動産売却時の代理人と委任状の関係

不動産売却時に、代理人が必要になるのはどのような場合か。

そして、委任状にはどのような意味があるのか見ていきます。

不動産売却時の代理人とは?

不動産の売買は、不動産会社(宅地建物取引業者)を仲介して行うことが多いですが、不動産会社が売主と買主をマッチングさせた後の売買契約の場面では、売主と買主が直接、顔を合わせて、売買契約書に署名、押印するのが一般的です。

ところが、売主が売買契約の場面に立ち会うことが難しく、売主が欠席してしまうと、その場では、売買契約が成立せず、後日やり直す形になってしまい、出席した買主側に迷惑をかけてしまうことになります。

そのような事態を避けるために、売主本人が売買契約締結の場に立ち会うことが難しい場合は、代理人を立てる必要があります。

不動産売却の代理人に資格は必要なのか?

不動産売却における代理人には特別な資格は求められていません。

そのため、売主本人の子どもを代理人に立ててもよいですし、その子どもが未成年者であっても問題ありません。

未成年者が売買契約などの法律行為をした場合は、無条件で取消せることになっています(民法5条2項)が、未成年者が代理人の立場で契約する場合は、契約の効果が帰属するのは売主本人であり未成年者ではありません。

つまり、売主本人が契約リスクを背負うわけですから、未成年者が代理人でも問題ないわけです。

もちろん、未成年者のした代理行為を無条件で取消せるわけでもありません。

一般的には売主が信頼している成年の親族、法律や不動産の専門家を代理人に立てることが多いです。

成年の親族ならば、報酬は必要なく、謝礼程度でよいですが、不動産売却に関する専門知識がなければ、何らかのミスがあった場合、売主がリスクを背負うことになります。

一方、法律や不動産の専門家を代理人にする場合は、それなりの報酬が必要になりますが、致命的なミスを犯す心配はほとんどないですし、リスクも少ないと言えます。

どのような人を代理人に選ぶかは、売主本人の考え方次第です。

不動産売却の場面で代理人ができることは?

不動産売却の場面では、代理人は、売主から与えられた権限の範囲で、自分の判断で売買契約締結交渉に当たることができます。

例えば、売主が代理人に不動産売却に関する「一切の権限」を与えた場合には、代理人は自分の判断で売却価格について買主側と交渉して、売主に確認することなく決めてしまってもよいことになります。

そのため、売主が売却金額について、一定額以上を希望しているような場合は、その旨を委任状に明記しておくことが大切になります。

つまり、代理人の権限の範囲を示す書類が「委任状」なのです。

代理人が委任状を持っていない場合は不動産売却ができるのか?

不動産売却の委任状を持参しない人が「売主の代理人だ」と称している場合、その代理人が売買契約を進めることはできるのでしょうか?

売主の代理人であることがはっきりしていても、委任状を持っていない場合は、「権限の定めのない代理人」と判断します。

この場合、代理人ができることは、保存行為と利用または改良を目的とする行為だけです。(民法103条)

つまり、不動産の修理や短期間の賃貸借契約は締結できますが、不動産売却はできません。

不動産売却の場面で代理人を立てるなら委任状が必須なのです。

不動産売却で委任状を使うのはどのような場合か

不動産売却で委任状を使う場面としては、3つの場面が想定されます。

それぞれの場面における注意点を紹介します。

売主本人が他に大事な用事があったり、入院したり、病気になったりして立ち会いが難しい場合

やむを得ない事由があるために売主本人が売買契約の場に立ち会うことが難しい場合は、信頼できる人に委任状を交付して、売主の代理人になってもらうことがあります。

売主が自分の意思で代理人を選んで委任状を交付していれば問題はありませんが、意識不明の状態にあるケースだと有効に委任状を交付したと言えるのかが問題になります。

例えば、売主が集中治療室(ICU)に入っていてまともな会話もできず、意識の回復も見込めない場合です。

売主が自分の意思で委任状を手渡したと言えるのかが問題になるわけですが、次のように考えます。

1.意識不明の状態になる前に自分の意思で代理人を選んで委任状を交付していた場合

  • 売主の意識がある時に有効に委任状を交付していれば、委任状を交付した後で本人が意識不明になっても、代理人は委任状に基づいて有効に活動できます。
    つまり、売買契約を進めることができるわけです。

2.委任状の交付前から意識不明の状態にある場合

  • この場合は、売主の意思で代理人を選んで委任状を交付したとは言えません。
    他の人が勝手に委任状を偽造したことになります。
    無権代理に当たるため、代理人が委任状を持っていても有効に売買契約を締結することはできません。
    このような場合は、売主本人の代わりの人を立てなければならないわけですが、一般的には、家庭裁判所に成年後見人の選任(後見開始の審判)を申し立てます。
    成年後見人には、法律の専門家か親族が選ばれることが多いですが、売主本人の立場で活動します。
    成年後見人自身が売買契約に立ち会うこともできますし、別途、代理人を選んで委任状を交付することもできます。
    なお、成年後見人が成年被後見人(売主本人)の居住用不動産を売却する場合は、家庭裁判所の許可を得なければならないことに留意しましょう。
    成年被後見人の住み家を売却する重要な行為のため家庭裁判所の監督を必要としているのです。(民法859条の3)

3.委任状の交付後、売買契約前に本人が死亡した場合

  • 委任状交付時は意識がはっきりしていても、売買契約前に売主本人が死亡してしまった場合は、その時点で委任関係は終了します。(民法111条)
    つまり、代理人に交付した委任状も無効になるので、売買契約を進めることはできません。
    売主側で相続手続きを済ませて、売主の立場を引き継いだ相続人が改めて、売買契約に立ち会うことになります。

このように売主本人が病気がちで体調の急変などが考えられる場合は、委任状には委任した日の日付を明記しておくことが重要になります。

その日付の時点で売主の意識がはっきりしていれば委任状は有効と解します。

遠方の不動産を売却する場合

遠方の不動産を売却する場合は、売主本人が現地に赴くことが難しいこともあります。

このような場合は、現地の信頼できる第三者に委任状を交付して代理人になってもらうことがあります。

売主本人が代理人に細かく指示を出すことが難しい場合が多いので、このケースで渡す委任状には、委任事項を詳細に記載することが大切です。

特に、売却の条件や価格で譲れない点があるなら、その範囲を明記すべきです。

共有名義になっている不動産を売却する場合

共有名義になっている不動産の売却は、持分だけの売却でない限り、共有者全員でするのが原則です。(民法251条1項)

そのため、共有者のうち、立ち会えない人がいる場合は、その人の代理人を立てなければなりません。

共有者の一人が他の共有者全員の代わり、つまり、代表者となることもできますが、この場合でも、他の共有者から代表者となる共有者へ宛てた委任状が必要になります。

共有名義の不動産を売却する場合は、共有者の間で、売却の条件や価格について話し合って、ラインを決めていることが多いですが、代表者が話し合って決めたラインを反故にして、自分の判断で売却の条件や価格を下げてしまわないように、自分の持分についての売却の条件や価格で譲れない点があるなら委任状に明記しておくことが大切です。

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不動産売却の委任状の書き方

不動産売却の委任状は、代理人の権限の範囲を示す重要な書類ですから、書き方を間違えてしまうと、売主本人の意図しない権限を代理人に付与してしまうことになりかねません。

そのため、不動産売却の委任状の記載内容や形式は念入りに確認することが大切です。

不動産売却の委任状の作り方

不動産売却の委任状の作り方は、特に決まりはありませんし、決まった書式があるわけでもありせん。

売主本人が文章を考えて、紙に手書きしてもよいですし、パソコンで書いた文章をプリントアウトしたものでも構いません。

縦書き横書きも問いません。

形式的に必要な項目は次の内容です。

  • 売主本人と代理人の名前、住所、署名と押印
  • 委任する内容

不動産売却の委任状に押す印鑑

不動産売却の委任状には、売主本人の署名と押印が必要ですが、この際に用いる印鑑は三文判でもよいのが一応の建前になっています。

しかし、不動産売却の場面では、委任状の印鑑は実印を用いるのが通例です。

さらに、売主本人の意思で委任状を交付したことを示すために、印鑑証明書を添付するのが一般的です。

不動産売却の委任状の印鑑の押し方

不動産売却の委任状の印鑑は、売主本人の署名の横に一つ押すだけです。

委任状が2枚になる場合は、綴じ目に「契印」を押すことはありますが、「捨印」は押さないようにしましょう。

「捨印」とは、不動産売却の委任状の文章に間違いがあった時に、修正できるように押しておくものです。

しかし、不動産売却の委任状は、売主本人が代理人に渡した時点で間違いがないことを確認しているはずで、後で修正する必要はありません。

それなのに、「捨印」を押してしまうと代理人が委任状の内容を勝手に書き換えてしまうこともあります。

つまり、売主本人の意図しない権限を行使してしまう可能性があるので注意が必要です。

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不動産売却の委任状の記載項目

不動産売却の委任状の主な記載項目を見ていきます。

売却する不動産の表示項目

不動産登記事項証明書の表題部に記載されている項目に沿って、正確に記載します。

複数の不動産を所有している方が、その一部のみを売却するケースでは、売却する不動産を明確にするためにもこの記載が重要です。

記載がなかったり、不明確だったりすると、売却するつもりのない不動産を売られてしまうことになりかねません。

不動産の売却条件

不動産の売却条件として記載すべき項目は次のとおりです。

  • 売却価額
  • 手付金の額
  • 不動産の引き渡し予定日
  • 売却代金支払日と支払い口座
  • 売買契約の解除期限と違約金
  • 固定資産税などの分担起算日
  • 所有権移転登記を行う日

売却価額

代理人が勝手に値下げしないように売却価格を明記することが重要です。

仲介してくれた不動産会社にあらかじめ確認してから記載しましょう。

手付金の額

売却価格の何パーセントという形で記載します。

相場は5%~10%程度ですが、不動産会社に確認してから記載しましょう。

不動産の引き渡し予定日

令和何年何月何日と明確に記載します。

この日までに、売主側としては不動産を明け渡せるようにしておく必要があるので、引っ越しが必要な場合は無理のない日付を設定しましょう。

売却代金支払日と支払い口座

令和何年何月何日と明確に記載します。

この日までに、売主側としては不動産を明け渡せるようにしておく必要があるので、引っ越しが必要な場合は無理のない日付を設定しましょう。

売買契約の解除期限と違約金

売買契約の約束を交わしても、買主側がキャンセルすることがあるかもしれません。

そのような場合に備えて、いつまでならキャンセルを認めるのか。

また、キャンセルした場合の違約金の額も決めます。

違約金は、売買価格の10%〜20%が相場ですが、不動産会社に確認してから記載しましょう。

固定資産税などの分担起算日

不動産の固定資産税などは、引き渡すまでは売主の負担、引き渡した後は買主の負担になりますが、どの時点を基準とするのかを明記します。

一般的には、不動産の引き渡し予定日と同じに設定します。

所有権移転登記を行う日

所有権移転登記を行う日を設定します。

一般的には、買主が売主に売却代金の全額を支払った日に所有権移転登記を行います。

その他の記載事項

不動産売却の委任状の悪用を防ぐために重要な項目になります。

  1. 委任した日
    委任状を作成した日の日付を記載します。
    先に紹介した通り、この時点で売主に正常な意思能力があれば、不動産売却の委任状は有効です。
  2. 委任状の有効期限
    委任状の悪用や流用を防ぐために、有効期限を設定します。
    代理人にどこまでやってほしいのかが基準です。
    売買契約の立ち合いだけでよいなら売買契約日の直後まで、明渡しまでやってほしいなら明渡し予定日の直後までに設定します。

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不動産売却の委任状で注意したい表現

不動産売却の委任状で注意したい表現を3つ紹介します。

  1. 「以上」は必ず入れる
    委任事項の最後は必ず、「以上」で締めくくります。
    記載した事項が委任事項のすべてであることを示すと共に、文章を追加されることを防ぐための措置です。
  2. 「すべて」は使わない
    例えば、不動産売却に関する「すべて」の権限を委任するという表現を入れてしまうと、代理人が委任事項の範囲を超えて権限を行使してよいものと受け止められかねません。
  3. 「一切の件」は使わない
    同じように、不動産売却に関する「一切の件」を委任するという表現は、代理人に不動産売却に関するあらゆる権限を付与したものと受け止められかねません。

不動産売却の委任状の雛形

上記までに紹介した項目を踏まえた雛形を紹介しておきますので参考にしてください。

コピーを作成して、自由に編集する、もしくはファイル→ダウンロード→Microsoft Wordを選択することでword形式で利用も可能です。

委任状

委任者甲野太郎は乙野次郎を代理人とし、下記2の売却条件で、下記1に記載された不動産の売買契約を締結する権限を委任する。

1、売買物件の表示項目

土地
所在:東京都千代田区霞が関●丁目
地番:●番●
地目:宅地
地積:300平米

建物
所在:東京都千代田区霞が関●丁目 ●番地●
種類:居宅
構造:木造かわらぶき2階建て
床面積:1階80平米 2階70平米

2、売却条件

売却価額:金100,000,000円
手付金の額:売却価格の10%
引渡予定日:令和6年3月31日
売却代金支払日と支払い口座:令和6年3月25日 口座 三友JFU銀行霞が関支店(000)0000000
売買契約の解除期限と違約金:令和6年3月25日 売買価額の10%
公租公課の分担起算日:不動産の引き渡し日とする。
所有権移転登記を行う日:令和6年3月25日
その他の条件:売却条件に記載されていない事項、上記に記載された売却条件の内容に変更がある時は、委任者と代理人でその都度協議して決定する。

3、本委任状の有効期限 令和6年3月31日までとする

以上

委任日 令和6年3月20日

委任者
住所 東京都千代田区永田町●丁目●番●号
氏名 甲野太郎(印)

受任者(代理人)
住所 東京都千代田区永田町●丁目●番●号
氏名 乙野次郎(印)

まとめ

不動産売却における委任状の重要性と、委任状に記載すべき項目を紹介しました。

不動産売却は売主本人が立ち会って行うのが確実ですが、様々な事情により、立ち会うことができない場合は、この記事で紹介した点を踏まえた委任状を作成し、信頼できる代理人に委任することが大切です。

ぜひ、参考にしてください。

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